NPO法人 富山のくすし



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薬都富山で活動するNPO法人「富山のくすし」は漢方や薬用植物の栽培、薬膳料理についての普及活動を行う団体です。風邪の時に飲む葛根湯などでもお世話になっている漢方薬。実は、人によって効く漢方と効かない漢方があるってご存知でしたか?自分の体を知りたい方に、ぜひおすすめしたい「富山のくすし」の活動。代表の服部さんにお話を伺いました。

 

 
 
—団体の名前が「富山のくすし」ということで、薬で有名な富山ならではの団体だなと感じました。

 

薬師(くすし)は今でいう医者のこと。中国古来の医学や薬用植物を使った「本草学」に基づいて、治療を行う人でした。「富山の薬売り」の方々も薬の高い知識を身につけて、全国各地を回っていたので、薬師の一役を担っていたともいえます。

「富山のくすし」では、一般市民の方々に、富山で築き上げた「くすり文化」を学んでもらい、知識を深め、健康に役立ててもらうことを目的としています。

 
 

—何がきっかけで団体を立ち上げられたのですか?

 

平成20年度に文部科学省から採択された「知的クラスター創生事業(※1)」終了後、継続活動の一端として、「富山のくすし」が設立されました。富山では、医学分野が世界でも先駆的と認められていたので、市民にも漢方などの伝統医学知識を広め、さらに薬用植物栽培、薬膳などの普及や後継者養成を目指し、スタートしたんです。

 

 

—国の事業を受けて、富山のくすしが始まったのですね。

 

そうです。設立した後も、富山県くすり政策課との協働事業として、「新しい公共モデル事業費補助金」を受けて、「薬都とやまのくすり文化」の継承・発展支援事業を行うことができました。設立メンバーも当時の富山大学の教員や製薬企業の職員、富山県薬用植物指導センターの元職員など、医学・薬学分野の専門家が多く、現在も設立メンバーが多く残っています。富山大学の医学部や薬学部の学生も会員に入っていますよ。

 

 

 

 

—大学教授や専門家が会員と聞くと、エキスパートばかりが集まった団体かなと思ってしまいますが…。漢方や薬学は一般の人にも理解できるものでしょうか?

 

実は漢方って私たちにとても近い存在なんです。おそらく一番よく利用される漢方薬は、風邪の時に飲む葛根湯だと思います。ですが、葛根湯って誰にでも効く薬ではないんです。葛根湯に限らず、漢方薬は、体質によって効いたり効かなかったりするんですね。なので本当は今の自分の病気に合う漢方はどれなのかを知った上で服用するものなのです。

また、体の一部が少し痛い、なんとなくだるいなど西洋医学の医療機関では病気ではないと診断される症状は、漢方での改善が期待できます。更年期障害や認知症なども、漢方の力が期待できるものの一つですね。

医薬品などを扱う薬剤師も漢方や生薬の知識は十分ではなく、漢方医学・生薬の再教育講座を開いて、「漢方薬・生薬認定薬剤師」という認証を行っています。私たちの講座でも現役の薬剤師の受講が増えています。全ての薬剤師が漢方や漢方薬に関して十分な知識を持っているわけではないので、お客さんと接するうちに、漢方を本格的に学びたいという人が増えているのかもしれません。一般市民も自ら学びたいと思う人が増えてきているようで、今や会員の8割以上が一般市民です。

 

 

市民講座(薬用植物栽培研修)の様子。講師の話を熱心に聞く参加者の皆さん

 

 

—漢方を理解すると、自分の体をより理解できそうです。普段の活動も漢方に関わることをされていらっしゃるんですか?

 

市民向けの講座や会員の研修旅行のほか、薬膳食の研究・試食会も行っています。

市民講座の「漢方医学と生薬講座」は年10回開催していて、7回以上出席した会員には「富山の薬師」認定書を授与しています。1回のみの参加も可能なので、興味のあるテーマの講座にだけ参加する方もいらっしゃいます。参加者は毎回50〜60人ほど。これまでは富山市内で開いていましたが、今後は射水市内でも開催したいと考えています。

また、年に1度の研修旅行は、世界で初めて全身麻酔を成功させた華岡青洲ゆかりの地・和歌山県紀ノ川市を巡ったり、医学・薬学の歴史資料のある博物館(岐阜市)を訪れたりしています。会員間の交流を深めるのはもちろん、新しい知識との出会いも楽しみですね。さらに薬膳食文化研究会では、薬膳の考え方やや、薬膳に利用できる新しい食材の追求をしています。中国の薬膳は日本人の好みに合わないと言われており、日本人に合う旬の野菜を取り入れた食べやすい薬膳料理を提案しています。富山でよく獲れるブリも、日本人に合う薬膳の食材の一つで、血液をさらさらにする成分があると言われています。

 

 

薬膳食文化研究会にて薬膳を試食

 

 

—漢方って実は身近な存在なんですね。市民講座も1回から参加可能ということで、気軽に漢方を知ることができそうです。

 

講座に関して言えば、実は富山にも偉大な医師が多くいたんですよ。例えば華岡青州の一番弟子と言われた、館玄龍(たちげんりゅう)は越中の出身で、市内の下村地区には、館玄龍の功績を記した大きな碑が建てられています。弟子たちが建立したようですが、今では市民もあまり知らないみたいですね。

 

 

館玄龍の碑の高さは、人間の身長を優に超える

 

 

—江戸時代に華岡青州の一番弟子が富山にいたとは知りませんでした。やはり薬で有名な富山県だけあって、歴史も深そうですね。これからの展望はどのようにお考えですか?

 

「富山の薬売り」は全国的に有名ですが、最新の医薬品や医療技術においても評価が高いです。現在、上市町ではシャクヤクやトウキなどの薬用植物を栽培し始めています。富山県の土壌や気候に合わせたさらに多くの薬用植物の栽培を期待します。富山の薬文化が楽しみな反面、後継者不足の問題も大切です。少子化とともに富山のくすり文化を支えていた人々の数も減ります。私たちの世代に伝えられたくすり文化をつないでいくことも、使命だと思っています。

もちろん一般の市民のみなさんにも、漢方の幅広さを知ってほしいです。病気ではないと診断されても、漢方では大きな病気の前兆と考える場合もあります。そのような時に服用すべき漢方を知っていると、自分の体との付き合い方も変わってくると思いますね。漢方って本当に身近な存在なので、気軽に講座に来てほしいです。

 

 


 

専門用語などから難しいイメージが先行してしまう漢方分野。しかし、”知らないからといって、健康ではない状態を「気のせい」「よくあること」「年齢のせい」といってそのままにしてしまうのはもったいない。近年聞き慣れた「未病」にも二千年前から対応してきた漢方の身近さと心強さを、より多くの人に気付いてほしい”という服部さん。つい自分の健康を疎かにしがちな人たちにこそ、知ってほしい活動です。

 


 

※1 知的クラスター創生事業

大学などの研究機関や研究開発に重点を置く企業によって技術革新のための集積「知的クラスター」の創成を目標とするもので、自治体の主体性を重視した自治体への支援事業。

 

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